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大宜味村から世界へ!パイナップルの天然繊維で社会にインパクトを与える企業に

株式会社 FOOD REBORN(フードリボン)

宇田 悦子さん

2025年3月4日 公開

2017年に沖縄・大宜味村のおばぁとの出会いをきっかけに、シークワーサー事業を開始し、廃棄されていた果皮を精油やアロマオイル、粉末、キャンディーとして商品化。さらに、パイナップル繊維の活用にも取り組み、ウォータージェット技術を活かして繊維を取り出す特許を取得。インドネシアやフィリピンと連携し、貧困地域での産業再生や環境課題の解決にも取り組み中の株式会社フードリボン。2024年には大宜味村にて念願だった本社を新設し、沖縄発スタートアップ企業として注目を集める同社代表、宇田さんにお話をお聞きした。

大宜味村のおばぁと、娘の描いた絵が教えてくれた、
2つのきっかけと覚悟

当時働いていた、農業生産物を粉末にする会社の業務委託で沖縄を訪れ、たまたま大宜味村のシークワーサーと出会ったという宇田さん。人生の転換期だったこともあり、2017年にシークワーサーを利用した事業を開始した。大宜味村は元々シークワーサーの産地だったが、これまで捨てられていた果皮に注目し、ジュースだけでなく、果皮サプリメント、化粧品、飴、アロマオイルなど、シークヮーサーを余すことなく利用する製品を開発していった。

シークワーサー事業から始まったフードリボン。現在も継続している

大宜味村に足を運び、少しずつビジネスを進めていく中で、村の人々との繋がりもできてきた頃、村のおばぁに「お家にいらっしゃい」と呼んでいただくことも多くなったそう。

「おばぁは自宅でシークワーサーの果皮を粉末化して、サーターアンダギーなどを作り、近所に振舞っていたんです。それがとても美味しくて。ある日、おばぁに『なんのためにこの仕事をしているの?』と聞かれて。咄嗟に『大宜味村のために』と答えたんです。でも、実際にはまだ何もできていない自分が恥ずかしくなって。なんのためにこの仕事をしているんだろう?と考えるきっかけになりました。」

いらっしゃいと家に呼んでくれる村のおばぁたち

その時に、この仕事をさせてもらっていること、助けてもらっていることへの感謝の気持ちが宇田さんに湧き上がったという。

「自分を受け入れてくださっている地域の方や、農家さんの協力などに対する、恩返しがしたい。支えていることへの感謝を形にしたい。そうして自身の決意が固まりました」

生半可な思いで事業は実現できないと思い、気持ちを新たに沖縄に引っ越しを決めた。その決意と覚悟が全てのはじまりだったという。

やがて、今や海外にもその広がりを見せるパイナップルの繊維開発事業にも取り組むことになる宇田さんだが、それにもあるきっかけがあった。

「沖縄に移住してしばらくしたある日、娘が描いた沖縄の海の絵にペットボトルが浮かんでいて。ショックを受けたんです。」

それをきっかけに、海外から流れ着くプラスチックごみや、マイクロプラスチックの環境問題に目を向けるようになった。その後、居ても立ってもいられない思いで海辺でのゴミ拾いをしながら気づいたことは「ゴミを拾うだけではなく、その根本を変えないと解決しない」ということ。「ものを作って売るだけではなく、創る時点でデザインし、社会課題の解決と循環型ビジネスの両方を叶えられるような方法は?」と頭がシフトしていき、「課題解決ができる事業とは何か?」と考えるようになった。

ちょうどその頃「隣村の東村から特産品であるパイナップルも、シークワーサーのように活用できないか?」と声をかけられた。

パイナップルは加工場で出る残渣はすでに堆肥や家畜の餌になって、果実収穫後の畑に残る葉は未活用であった。また葉について調べると、フィリピンではパイナップルの葉から繊維を取り出す伝統産業があることを知った。「沖縄のパイナップルでも、繊維が作れるのではないか?」というのが開発のきっかけだったそう。

天然繊維について調べるうちに、繊維業界の課題を知った。自分が着ているものに初めて目を向けてみると、半分以上が化学繊維で、洗濯時にマイクロプラスチックを出していることや、天然繊維の服も、その生産背景を知らずに購入している自分に気づいたという。「日常の気付きと社会課題がつながり、課題の本質が見えてきたことで、点と点が線になった感覚がありました。」それから、本格的に天然繊維に取り組むことになった。

沖縄から世界へ。ウォータージェットで繊維が取れる
機械の開発と、世界に向けた広がり

 2019年からパイナップル葉繊維の開発を開始。当初は既存の繊維抽出方法を導入し、スタートしたが、生産性・品質・コスト共に課題があり、自社開発に乗り出した。繊維抽出時に発生する葉肉部分も活用するため、初めは葉肉をパウダー化して樹脂に混ぜ、バイオプラスチックのストローを制作した。

開発スタート後は、国内外の大学や研究機関などの専門家にも協力してもらうことができ、3年後、ついにウォータージェットで繊維を抽出する機械を自社開発。水を循環利用できることや、微細な繊維を抽出すると同時に残渣を回収して活用できる構造にし、ついには、世界初の特許も取得した。

特許を取得したパイナップルの繊維機械

ただ、パイナップルの繊維で「社会にインパクトを与える事業」として成り立たせるには、沖縄の原材料だけでは足りないことに気づいていた。沖縄は、パイナップル果実の生産量世界ランキングは56位ほど。一方アジアでは世界の半分の量のパイナップルが生産されており、沖縄から近いアジア諸国に目を向ける必要があった。

事業が広がり始めたきっかけは、2021年に沖縄スタートアッププログラムに選ばれたことだった。さらにその一年後、国内最大級のスタートアップカンファレンス「IVS 2022 NAHA」のメインピッチコンテストにも登壇し、見事準優勝を獲得。これをきっかけに様々なベンチャーキャピタルや、事業会社からも声がかかるようになり、海外進出の機会も増えていった。

それから台湾にて、インドネシアにスマート農業などの支援を20年ほどされていた大学教授がパートナーになり、その繋がりでインドネシアの国立農業組織ともMOUを交わして、本格的な導入が見込めるようになった。2024年4月にはようやくインドネシアに機械を設置し、工場が稼働し始めた。茎と葉から繊維取り出し、綿の状態で出荷、紡績企業にて糸にするという流れだ。

2024年に稼働が始まったインドネシア工場にて

またフィリピンでも、地元の紡績産業が消えつつある状態を復活させるべく、同国の貿易産業省とも話を進めていて、今年、主に日本、インドネシアに加えてフィリピンへの展開を加速していく。

大宜味村に想いが詰まった本社が開設
大きな一段を登れた

側から見れば順調に事業を進めてきたかに思えるが、ここに至るまでに多くの試行錯誤があり、決して順風満帆ではなかった。研究開発や海外展開を進めて実績を積ね、その実績を認めてもらい、大宜味村と国の支援を受けて、2024年5月、大宜味村に本社工場を開所。

大宜味村にて念願のフードリボン本社がオープン

「村との信頼は『こうしていきたい』という言葉だけで築けるものではありません。行動や結果で示し続け、積み重ねることで初めて得られるものです。大宜味村で本社を構えられたことで、確実に大きな一段を登れました。」と胸を撫で下ろす宇田さん。

本社は「産業・観光・教育」を3つのテーマとし、繊維の生産や研究開発をはじめ、縫製研修やワークショップなどを通じて沖縄発のものづくり拠点を目指す。沖縄県は製造業が少なく、日本全国が20%なのに対して、4%ほどしかないという。

本社にて地域の人に向けて行われた研修の様子

「ものづくりの産業拠点となることで、子育て中の女性や、介護をしていても手に職をつけられ、一通りのものづくりがここでできるようになれば、経済的な自立につながる。女性の経済的な自立は、子供の貧困という沖縄の課題解決にもつながります。かりゆしの認定工場となり、縫製の受託も受けていき、雇用の創出をする」と地元への貢献も忘れない。また、縫製研修施設の付帯設備として、2階には15部屋の宿泊施設も完備している。

本社に設備されている縫製設備。広々としていて清潔感がある

フードリボン(Food Reborn)という社名には、地域の風土に眠る資源を大切にし、それらを生まれ変わらせる(Reborn)という理念が込められている。生産から消費の行方までの循環のリボンとなることを意味しているという。

大宜味村は世界からも注目されているブルーゾーンの一つ。伝統産業を大切にしながらも、ものづくりで繋がっていく。次世代と連携し、様々な国の人々との交流も生まれはじめている。

社会にインパクトを与える企業として、
ようやく0地点に立った気持ち

ここ数十年は、消費後の行方までを設計されずにものが作られ、消費者もまた、背景にある長いサプライチェーンが抱く課題を知り得ずに購入することが当たり前であった。現在、オーガニックコットンは世界で1%ほどしか生産されていない。そんな中、サステナブルな生産背景を持つ素材が注目され始めてオーガニックコットンの需要が伸びても、生産量はすぐには伸びない。一方で、未利用資源由来の天然繊維は既に畑に膨大な量が眠っており、そのポテンシャルは大きい。目標は2030年までに未利用資源由来の繊維が5%使われるようになること。

ピーニャと呼ばれるパイナップルでできた天然繊維。軽量で通気性が良い

「社会を変えるのには、5%から。と、聞いたことがありました。今の私たちにとってはものすごく大きな挑戦ですが、世界の5%を変えられたら、そこでようやく社会を変えられるインパクトにつながるのではないか?と思ってこの目標を掲げています。」

現地のパイナップル農家さんの理解と連携が欠かせない

パイナップルの生産地は、1位インドネシア、2位フィリピン。『可能性を沖縄から世界に』と、取り組みを世界の地域に広げていこうと考えた時に、同時にこれらの地域では農家の貧困問題も抱えていることを知ったという宇田さん。パイナップルの繊維は軽量で通気性がよく、シルクのような光沢感と風合い。強度があり、摩擦にも強い。繊維事業を継続的に行うことで、地域の人々の経済的な自立、地域の産業、持続可能な仕組みも構築することができると考えた。

「1ステップ目としてまずは沖縄に拠点を置き、2ステップ目に海外に広げ、3ステップ目で、ヨーロッパや、アメリカなどの世界的消費国に広げていこうと思っています。やっと、麓に来た感覚。まだまだ0地点。くらいの気持ちです。」
目標にはまだまだ遠い。しかし、社会を変えられるかもしれない、その準備が整ったフードリボンの今後の取り組みが、ますます楽しみになった。

株式会社 FOOD REBORN(フードリボン)

設立
2017年9月20日
資本金
3億4千万円
代表者
宇田 悦子
事業内容
農産資源活用の研究開発及び企画・製造
本社所在地
沖縄県国頭郡大宜味村字田港1032番地1
ウェブサイト
https://food-reborn.co.jp/
E-mail
info-kiseki@food-reborn.co.jp

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