新たなチャレンジと起業を応援するビジネス情報サイト

沖縄スタートアップ図鑑

運営会社
起業家図鑑

何を燃やしても煙が出ない焼却炉で、離島と世界のごみ問題を解決!

株式会社トマス技術研究所

福富健仁さん

2024年3月16日 公開

「ごみ問題を解決に導くこの仕事は、僕にとって天職です。未来の子どもたちに『ありがとう』と言ってもらえるような社会を作りたい」
そう誇らしげに話すのは、何を燃やしても煙を出さない小型焼却炉「チリメーサー」の開発に成功した、株式会社トマス技術研究所の福富健仁代表取締役。
離島地域やごみ問題を抱える国を救う素晴らしい技術と、今後の展望を取材した。

株式会社トマス技術研究所 福富健仁代表取締役(左)と営業部の小幡浩さん

何を燃やしても煙が出ない焼却炉「チリメーサー」

トマス技術研究所が製造するのは、どんなごみを燃やしても煙が出ない小型の焼却炉「チリメーサー」。特許技術による革命的な発明だ。

2002年に施行された「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」により、それまで日常的に許されていた廃棄物の野焼きやドラム缶での焼却ができなくなった。基準に適合した焼却炉以外でのごみの焼却が禁止されたからだ。

環境保全の観点からは当然の措置でもあったが、大量の廃棄物が発生する業種において、ごみの処理費用は大きな負担となってしまった。
また、沖縄の離島地域では、毎日海岸に大量の海洋漂着ゴミが運ばれてくる。処理スピードやコストの観点から、大きな焼却炉がない地域にとっては深刻な問題だった。

「小型の焼却炉という選択肢がなければ、中型から大型の焼却炉の購入と運用が必要になります。また、廃棄物処理場のない沖縄の離島や僻地においては、必要量に適しない大きさの焼却炉を購入するか、処理可能な地域への輸送が必要だったのです」と福富さん。

そこで、離島地域のごみ問題や中小規模の焼却炉が必要な人のために福富さんらが開発したのが、クライアントのニーズに合わせてカスタマイズする超小型の焼却炉「チリメーサー」だった。

トマス技術究所の本社。実際のチリメーサーを見ることができる。

法改正後、火床面積(火格子部分を含む燃焼室内の全火床)が0.5㎡以上(または焼却能力が50kg/h以上)の焼却炉を使用したい場合、設置の60日前までに都道府県知事への届出や排ガス検査が必要になった。

対してチリメーサーは火床面積0.49㎡、処理能力45kg/h以下の超小型化を実現。小〜中規模の起業や施設でも、届出なしかつ低コストでごみの処理が可能になったのだ。

チリメーサーの凄さはそれだけではない。燃焼温度を自動制御するため、ダイオキシン類を高温で熱分解し、法規制の50分の1まで抑えてくれる。環境にやさしく、周囲地域に迷惑もかからない。

チリメーサーの中のようす

「通常、燃やすと一番煙が出るのはタイヤです。チリメーサーなら、タイヤをどれだけ燃やしてもあの黒い煙が出ない。世界で認められた技術なんです」と福富さん。燃やすごみの種類によってチリメーサーの大きさもカスタマイズして提供しているという。

ちなみにチリメーサーの名前の由来は「塵(チリ)」と沖縄方言で「燃やす」を意味する「メースン」、そこにerをつけたものだという。

実際に、本社に設置してあるチリメーサーでごみの焼却過程を見せていただいた。

まずは通常の焼却炉のシステムで燃やすと、黒煙がもくもくと出てくる。確かにこの光景を近所で見てしまうと、健康や環境面で不安になるだろう。

通常、焼却炉からは黒い煙が出る

次に当社が特許を取得した技術のスイッチを入れてもらうと….

なんと一瞬で煙が止まり、むしろ煙突からは何も出ていないように見える。

「すごい…!」と思わず声が出てしまった筆者。

さらに、煙を出さないこの一連の焼却工程は、人の手でごみを投入した後は全てコンピューターが自動運転で行う。家庭用コンセントで可動するため、どの地域でも、誰でも簡単に操作できることが魅力だ。

ごみを燃やしたあとに残るのは、約100分の1の体積になった綺麗な灰だけ。

簡単なので導入しやすく、コストも削減できる。なにより環境にやさしい焼却炉。まさにごみ処理革命だ。

チリメーサーで焼却したあとに残った灰

開発の背景と起死回生のひらめき

トマス技術研究所のチリメーサーの凄さは十分理解したが、次に気になるのがこの画期的な発明の背景だ。

福富さんが生まれたのは、美しい海に囲まれた鹿児島県奄美大島。琉球大学工学部を卒業後、沖縄県内のプラントメーカーに技術者として就職。発電やメカトロニクスの設計を行っていた。当時は大量生産・大量廃棄が正とされる時代だったが、繁栄社会追求の陰で起こっている環境破壊に、やるせない気持ちを抱えていたという。

「自分の物づくりは、人に利便性を提供している一方で、環境を害している。このままでは未来の子どもたちにとって悪しきものしか残せない。ありがとうと言われるものづくり、環境を良くするためのものづくりがしたいと思いました」と福富さん。
勤めていた会社を辞め、これまで専門分野として技術を磨いてきた廃棄物処理分野で事業を立ち上げるべく、2003年に「株式会社トマス技術研究所」を設立した。

離島におけるごみ問題の深刻さも知っていた福富さん。「誰でも操作できる、環境にやさしい小型の焼却炉を製造するぞ!」と起業したものの、煙を出さない焼却炉の製造は簡単ではなかった。

知り合いの社長に出資をしてもらい、限られた期間の中で製造を開始。

「技術者としての経験から、煙を出さない機械をつくる自信はあった。しかし、最も黒煙が出やすいタイヤを綺麗に燃やすことが難しかった。出資者からのプレッシャーもあり、いよいよ、明日までに機械を完成させないと会社をたたむしかない、というところまできてしまったんです」と、当時の切羽詰まった状況を話してくれた福富さん。

「諦めかけていた夜、ムヌカンゲー(沖縄の方言で、”深く考え込むこと”)したまま湯船に浸かりました。だんだんのぼせてきて、煙を消すにはどうしたらいいのかを考えたとき、ビシっとひらめきが起きたんです」

詳細は企業秘密のためここには書けないが、このお風呂場でのこのひらめきが、煙を出さない革命的な焼却炉開発成功の鍵となった。

もちろん出資者にも認められ、県内外で数多くの賞を受賞するなど反響を呼ぶようになった。

現在は、多くの企業や離島地域、自治体に支持され、着実に販売台数を伸ばしている。

止まらないチリメーサーの飛躍、世界からも支持

次第に、ごみ問題に悩む海外の企業や施設からも依頼がくるようになった。
福富さんの記憶に特に印象に残っているのは、インドネシア・バリ島で医療廃棄物の被害に苦しむ島民を救うために作ったチリメーサーだ。

「使い終わった注射針等も、ごみ山にそのまま捨てられている状態だった。ごみを拾って生活する子どもたちや、ごみによる感染症に苦しむ人々の姿を目の当たりにした時、絶対に解決しなければと思いました」と当時を振り返る。

JICAの中小企業海外展開支援事業採択を受け、現地調査を重ねたのち、バリ島のワンガヤ市立総合病院のためにカスタマイズしたチリメーサー1基を設置した。現地で1日に燃やせるごみの量は2.5倍に増え、感染症や悪臭などもなくなり高い評価を受けた。

その地域や水の硬度、燃やすごみの種類を考慮し、カスタマイズしたチリメーサーを製造できるのが、当社の何よりの強みだ。

設計途中のチリメーサー。燃やすごみによってサイズを変えている

「自分がつくったものに『ありがとう』と本気で言われた時、この仕事が天職だと感じました。これからもやることは一緒。チリメーサーを作り続けてごみ問題を解決し、未来の子どもたちに誇れるような社会を作りたいんです。これからも、僕たちはチリメーサーを作り続ける。やることは一緒。場所が変わるだけです」

未来のスタートアップに伝えたいこと

「一流でないと人を喜ばせる仕事はできない」と話す福富さん。最後に、これから沖縄での起業やスタートアップの立ち上げを考えている人たちへのメッセージを伺ってみた。

「自分の欲望を満たすために起業しても意味がないし、そういった起業は長持ちしないのです。他人に愛をもって仕事をしてほしい。そこにあなたの天職がある。お金はそのあとからついてきます」

人の役に立ち、環境にやさしい事業を持続するため、日々最高の技術を提供する株式会社トマス技術研究所。沖縄が誇るスタートアップに成長することだろう。

株式会社トマス技術研究所=うるま市

株式会社トマス技術研究所

設立
2003年
代表者
福富健仁
事業内容
超低公害焼却炉の設計、製造、販売、研究開発
本社所在地
沖縄県うるま市勝連南風原5192-42
電話番号
098-989-5895
E-mail
thomasgiken@thomasgk.com

合わせて読んでもらいたいインタビュー


沖縄で起業したい方、
起業について知りたい方、
まずはお気軽に
お問い合わせください。

お問い合わせ