世界初!沖縄発のバイオベンチャー企業が、失われつつある養蚕業に革命を起こそうとしている。カイコの一部を利用し、創薬研究や再生医療研究の活性化に役立てる取り組みだ。この技術を開発した、株式会社シルクルネッサンスの代表取締役である伊東昌章教授にインタビューし、技術の特徴や開発背景、今後の事業展開について話を伺ってみた。
製薬や再生医療に不可欠な成分をカイコの抽出液を用いて合成する世界初の技術
一般の方には馴染みの少ない「タンパク質合成」だが、簡単に説明すると、薬を創るための実験や研究などで必要な病気に関わるタンパク質成分を作り出すことである。
これまでは、主にコムギ胚芽抽出液を用いたものや、同社代表が前職で先行して開発していた「昆虫培養細胞無細胞タンパク質合成系」などが普及していたが、できたタンパク質が不溶化して研究に使えなかったり、一度に作られる合成量が少ないことが課題だった。
それらの課題を克服して注目を集めているのが、「カイコ幼虫後部絹糸腺抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系(以下:カイコ無細胞タンパク質合成系)」だ。シルクルネッサンス代表であり、沖縄工業高等専門学校の教授でもある伊東代表らによって構築された、世界初の技術が用いられている。
短時間で高い合成量を実現!カイコ無細胞タンパク質合成系の優れた特徴
カイコ無細胞タンパク質合成系の技術では、は5齢(繭をつくる前の状態)のカイコの幼虫の後部絹糸腺を摘出し、破砕・抽出することでできる「後部絹糸腺抽出液」という水溶液を使用する。
この細胞抽出液を試験管に入れ、アミノ酸やエネルギー源等を加え、遺伝子情報を含むDNAを鋳型として、目的に合わせた多様なタンパク質を生成することができるのだ。
従来のタンパク質合成系と比較した場合のメリットとして、まず、動物由来で高い合成量という特徴が挙げられる。
従来の無細胞タンパク質合成系は、大腸菌、小麦胚芽、ウサギ網状赤血球、昆虫培養細胞、及びヒト培養細胞由来等の抽出液を用いてつくられていた。同社代表はこれまでも前職で先行開発商品として昆虫培養細胞無細胞タンパク質合成系の開発に成功していたが、今回のカイコ無細胞タンパク質合成系は、先行商品の2倍以上、ウサギ網状赤血球由来のものと比べると60倍以上の高い合成量を実現している。圧倒的に多くのタンパク質を製造することができるのだ。
また、先にも述べた通り、製造期間が極めて短いことも特徴だ。生きた細胞を用いた他の生産方法では1週間や4ヶ月かかるが、同社の技術では5時間で完了することができる。
そのほか、①細胞の培養が不要なこと、②ハイスループット化(ロボットを用いて自動的に高速で化合物を評価すること)が容易、③細胞毒性のあるタンパク質合成が可能、④非天然アミノ酸の導入が容易、⑤遺伝子組換え実験に該当しない、などもカイコ幼虫後部絹糸腺抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系のメリットだという。
カイコ無細胞タンパク質合成系の技術では、は5齢(繭をつくる前の状態)のカイコの幼虫の後部絹糸腺を摘出し、破砕・抽出することでできる「後部絹糸腺抽出液」という水溶液を使用する。
この細胞抽出液を試験管に入れ、アミノ酸やエネルギー源等を加え、遺伝子情報を含むDNAを鋳型として、目的に合わせた多様なタンパク質を生成することができるのだ。
従来のタンパク質合成系と比較した場合のメリットとして、まず、動物由来で高い合成量という特徴が挙げられる。
従来の無細胞タンパク質合成系は、大腸菌、小麦胚芽、ウサギ網状赤血球、昆虫培養細胞、及びヒト培養細胞由来等の抽出液を用いてつくられていた。同社代表はこれまでも前職で先行開発商品として昆虫培養細胞無細胞タンパク質合成系の開発に成功していたが、今回のカイコ無細胞タンパク質合成系は、先行商品の2倍以上、ウサギ網状赤血球由来のものと比べると60倍以上の高い合成量を実現している。圧倒的に多くのタンパク質を製造することができるのだ。
また、先にも述べた通り、製造期間が極めて短いことも特徴だ。生きた細胞を用いた他の生産方法では1週間や4ヶ月かかるが、同社の技術では5時間で完了することができる。
そのほか、①細胞の培養が不要なこと、②ハイスループット化(ロボットを用いて自動的に高速で化合物を評価すること)が容易、③細胞毒性のあるタンパク質合成が可能、④非天然アミノ酸の導入が容易、⑤遺伝子組換え実験に該当しない、などもカイコ幼虫後部絹糸腺抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系のメリットだという。
開発と起業の背景
シルクルネッサンスがつくるカイコ無細胞タンパク質合成系の仕組みがわかったところで、開発の背景と起業の経緯について紹介しよう。
伊東社長は、京都工芸繊維大学大学院工芸科学研究科修了後、民間企業で研究職に従事し,
2008年に沖縄工業高等専門学校の准教授に就任、その後、2010年に教授となった。現在は同校の副校長として研究・産学連携推進を担当しながら、株式会社シルクルネッサンスの代表取締役を努めている人物だ。
学校が年度末でお忙しい中、お時間を割いてくださった伊東教授。インタビューにお邪魔した校内を案内してくださりながら、笑顔で質問に答えてくれた。
「事業のミッションは養蚕業の復興。シルク(絹)ルネッサンス(復興) の名前の由来でもあります。桑の木と蚕を育てて繭から糸を生成する従来の養蚕業は国内で需要がなくなりつつあります。新しいかたちの養蚕産業をつくろうと思ったのが、研究と起業のきっかけです」と語る伊東社長。
2011年に沖縄県ベンチャー創出支援事業に採択され、2018年に株式会社シルクルネッサンスを設立。
副校長としての教員業務をしながらの起業準備は苦労も多かったという。
「正直とても大変でした。起業のプロセスが何も分からない状況で事業を動かしていかなければいけない。1回目の資金調達には1年半以上かかりましたね。沢山の方からサポートを受けてありがたかったのですが、支援が断片的でもあり、沖縄のスタートアップ支援において改善できるところかなとも思います。
起業の流れが分かっている方からのハンズオン支援があってもいいかと。わたしは起業して7年目になりますが、今後機会があれば、当時のわたしのように苦労している人にアドバイスできたらいいなと思っています」
沖縄高専の副校長、そしてスタートアップの社長として二足の草鞋に挑む伊東社長。そのモチベーションはどこからくるのだろうか?
「スタートアップとしての事業も成功させたいし、教育現場でも働き続けたい。わたしのように、アカデミアの現場にいながら起業する人が増えてほしいなと思います」と話す伊東社長。「やってやるぞ!」という熱量が、そのお話ぶりから伝わってくる。
シルクルネッサンスの今後の展望
カイコ幼虫後部絹糸腺抽出液を用いた無細胞タンパク質合成系は、製薬の現場で高いポテンシャルがあり、同社はこの技術を国内だけでなく世界に広めるため、営業や広報活動に力を入れている。メンバー4人の小さなスタートアップ企業だが、認知度向上と販路拡大に向けて奮闘する日々を送っているという。
最後に、伊東社長が描く今後の展望を伺った。
「2024年6月までに、第三者割当増資による1億2000万円の資金調達を目指します。研究・開発・商品化を推進する新たな3名の研究者を雇用し、事業拡大を狙います。2026年度までの黒字化が現時点の目標ですね。また、現在は製薬会社に商品を販売していますが、将来的には、当社が沖縄に根ざした製薬会社になることが夢です」
沖縄高専発のベンチャー企業、株式会社シルクルネッサンスが、沖縄初の製薬会社として事業展開する日がくるかもしれない。
今後も目が離せないスタートアップのひとつだ。
取材・文/稲福 加奈