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世界初のオーガニック吸水ポリマーで、沖縄から農業課題の解決と環境配慮へ

EF Polymer 株式会社

ナラヤン ラル ガルジャールさん

2024年3月16日 公開

人類が利用可能な淡水のうち、その70%を農業が利用していることをご存知だろうか?
世界には、干ばつにより必要な水の量を確保できず、作物収量減少に悩む農家が多く存在する。そんな農業の水不足を解決に導く、世界初の100%オーガニックな吸収ポリマーの研究に成功したのが、沖縄科学技術大学院大学(OIST)発のスタートアップ、EF Polymer株式会社だ。海外展開や企業との共同開発など、今後更なる事業拡大を目指している注目のスタートアップである。創業者兼CEOのナラヤン・ラル・ガルジャール氏に話を聞いた。

研究のきっかけは、乾燥地域の農家が抱える水不足問題

EFポリマーの創業者兼CEOのナラヤン・ラル・ガルジャール氏は、故郷のインド・ラージャスターン州で干ばつに苦しむ農家を助けるため、完全有機、完全性分解性を有する農業用の超吸水性ポリマーの開発をスタートした。サステナブルなソリューションを見つけることで、水が少ない地域でも農業を営むことができる環境を作ることを叶えたかったのだ。

超吸水性(高吸水性)ポリマー(SAP=Super Absorbent Polymer)とは、自重の何倍もの水分を吸水できる高分子素材のこと。
農業分野においては、この超吸水性高分子材を畑の土に混ぜ込む、乾燥地域や乾季でも土壌を湿潤な状態に保ち、生産性の向上や給水量頻度を減らすことなどが期待されている。
従来の製品は石油由来のポリマーが使用されていることがほとんどだが、これらは土で分解せず環境負荷が高いことが課題になっている。ナラヤンさんがこだわったのは、完全オーガニックで環境にやさしいポリマーだった。

EFポリマーの創業者兼CEOのナラヤン・ラル・ガルジャール(提供写真)

目指すのはFarm to Sustainable Living

EFポリマーがビジョンとして掲げるのは、地産地消、循環型経済モデルの確立を通したFarm to Sustainable Living(農業から生まれる持続可能な生活)。
地域で回収できる農業残渣からEFポリマーを製造し、農家の収量や収入アップに貢献し、さらにポリマーが還った土から新たな作物が生まれる。

EFポリマー散布イメージ (提供写真)

100%オーガニックな吸水ポリマーを開発したのは世界初で、当社はこの農業循環モデルを世界各地で展開することで、真に持続可能な農業を目指している。

EFポリマーが生まれるまで

大学で農業工学を専攻し、大学2年生という若さで起業。幼い頃から培った科学の技術を活かし、まずはオレンジやバナナ、サトウキビの皮などを土に埋める実験からスタートしたEFポリマーの研究は、学生寮の屋上で残渣を乾燥させたり仕分け作業をするなど、友人の力を借りながら少しずつ進んだという。

現地インドで農家と話すナラヤンさん

2019年、ナラヤンさんnが21歳のときに事業の転機が訪れる。沖縄科学技術大学院大学(OIST)のアクセラレーター・プログラムへ採択され、沖縄への移住が決まったのだ。
当時はまだ開発途中だったEFポリマーは、OISTが保有する充実した研究設備へのアクセスをはじめ、地元農家や企業とのネットワーク作りのサポートもあり、ついに商品化に成功。商品化した事業は一気に軌道に乗ることになった。

2023年4月には、シリーズAによる5.5億円の資金調達を完了。環境省 環境スタートアップ大臣賞、全印農業スタートアップ賞(インド・ラジャスタン州)、Cleantech Group APACクリーンテック25など、数々の受賞も獲得した。今後の更なる事業展開が期待されている。

ほかの吸水ポリマーとの違い、EFポリマーの特徴

ナラヤンさんは、「環境負荷がかなり少ないEFポリマーを、世界の農業地帯に広めたい」と意気込む。EFポリマーの特徴は主に3つだ。

まずは、持続可能な農業を実現できること。従来廃棄されていた作物残渣(オレンジやバナナの皮)をアップサイクルして作られ、6ヶ月かけて水の吸水・放出を繰り返し、12ヶ月で完全に土へ還る。

次に、土の中で水や肥料を吸収して長期間保つことができるため、水の利用量を最大で40%削減、肥料の利用量を最大で20%削減、収量を15%増加というしっかりとした効果が得られること。

さらに、農家の水撒き労力削減、肥料の流出減、作物の病気の軽減にもつながる。散布量の目安はあるものの、散布のしすぎによる根腐れ等の事例報告はないという。

実際に水と混合したEFポリマーのようす。ゼリー状になる。

果物や穀物など幅広い農作物に使用することができ、ほかの農業製品との組み合わせが安易に可能なことも、農家に選ばれる理由だという。
2021年から現在まで、グローバルで約160トンのEFポリマーを販売してきた同社。農業大国でありながら水不足に悩むアメリカやフランス、タイなどにも事業を展開している。国内外のさまざまな作物での実証実験結果は、順次ホームページでも紹介されている。

農業分野以外での可能性、抱える課題

「紙おむつやゲル芳香剤、保冷剤など、吸水性ポリマーを使用している製品は多くありますよね。100%オーガニックで環境に還ることができるEFポリマーへの可能性は大きく、現在、日用品や衛生用品の開発に向けた他社との共同研究も進んでいます」話すナラヤンさん。

生理用品やペットシート、シャンプーや化粧品、土増保水材など、少しリサーチするだけでも、吸水性のポリマーを必要とする製品は世の中に溢れている。
これらを石油を使用しない、または減らした環境にやさしいEFポリマーに代替することができれば、環境負荷の低減につながり、ゴミ問題の削減にも期待できる。

EFポリマー(提供写真)

素晴らしい実績と可能性を持つEFポリマーだが、現状の課題はあるのだろうか?

ナラヤンさんは「既存のポリマーが抱える環境配慮や持続可能性への課題をクリアしていることが強みですが、継続的な研究開発と、農業特有のサイクルの長さがチャレンジングな点です」と、農業分野での、そしてスタートアップならではの悩みも話してくれた。

生産者が普段使い慣れている農業製品から新しいものへ切り替える際、製品のベネフィットや使用方法の説明、効果を検証するまでの時間が必要になる。EFポリマーの散布から収穫増産の検証までを図るまでには6ヶ月から1年ほどかかる場合もあり、ひとたび広がれば市場は非常に大きいものの、販売経路拡大に時間がかかることもあるという。IT分野など比較的スピード感のある分野とは異なり、リピートまでのサイクルに時間がかかる環境だ。

また、その地域で獲れる作物を使って地産地消型のEFポリマーの開発を目指す同社。小規模から始まるスタートアップならではの悩みとして、事業の拡大に伴ってリソースの不足を懸念する場面もあるという。

OISTの支援、会社の雰囲気

これらの課題をサポートするのが、日本での起業を支援したOISTだ。スタートアップ・アクセラレーター・プログラムによる研究支援はもちろん、創業時や移住におけるサポートも助かったという。

現在EFポリマーがオフィスを構えるのは、OIST内にあるインキュベーション施設。シェアオフィスやシェアラボの機能があり、高性能の機械を共同で使用しながら研究を進めることができる。

EFポリマーが入るOISTのインキュベーション施設

国際色豊かなメンバーで構成されるメンバーも、成長が求められる当社のようなスタートアップにとって強い武器だ。コミュニケーションは英語でされることも多く、国際色豊かな雰囲気の社風だという。

ナラヤンさんは「自分の思いに共感してジョインしてくれるメンバーが多い。会社の成長に伴ってチームも拡大していく必要がある。当社製品やビジョンに興味がある人は、ぜひ一緒に働きたい」と、人材確保に向けても意気込みを語った。

今後の展望

「EFポリマーが目指す循環型農業が実現できれば、長期的な目線でより持続可能な農業の実現が叶います。EFポリマーを使っていただくことで、多くの農業分野で生産効率が上がり、世界的な干ばつによる水不足や、肥料価格の急騰で悩んでいる生産者の方を1人でも減らすことができるでしょう」と語るナラヤンさん。

さらなる活躍が期待できる注目のスタートアップ企業「EFポリマー」。ぜひ沖縄の皆さんも応援してほしい。

EF Polymer 株式会社

設立
2020年3月30日
代表者
ナラヤン ラル ガルジャール
事業内容
・農作物の残渣からオーガニック超吸水性ポリマー(SAP)を製造
・農家の水
・肥料コスト削減、土壌改良を通して事業支援を実施
・石油由来SAPを製造
・利用している企業の持続可能な事業実現に向けた事業トランスフォーメーションの支援を実施
本社所在地
〒904-0495 沖縄県国頭郡恩納村谷茶1919-1 Innovation Square Incubator
電話番号
050-3196-8761
ウェブサイト
https://ja.efpolymer.com/

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