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沖縄から社会課題解決のロールモデル発信!
産学連携で生み出すビジネスのかたち

株式会社Alpaca.Lab

棚原生磨さん

2024年4月4日 公開

貧困問題、基地問題、地域的なインフラ問題……一般的に、沖縄には社会課題が多いといわれる。一方で課題の多さは、それらを解決するに至る「ビジネスチャンス」が多いとも言い換えられる。そうしたビジネスは、同じような課題をかかえる他県のロールモデルとなり、新たな雇用を生み出せるのではないか? そんな使命感のもとに事業を推進する株式会社Alpaca.Lab(アルパカラボ)の代表取締役、棚原 生磨さんに話を伺った。

沖縄発、全国最大級の
運転代行配車アプリ「エアクル」

都会の方々には馴染みが薄いかもしれないが、「運転代行」は公共交通網が脆弱な地方でよく耳にする単語で、すなわち「自動車運転代行業」の略。随行車で二人一組が駆けつけ、二種免許を持っている方のスタッフが、飲食店でお酒を飲んだ人の車を代わりに運転し、目的の場所まで送り届けてくれるサービスだ。沖縄の離島に住む筆者も、飲み会の帰りにはお世話になっている。

従来の利用方法は「電話」による依頼だ。週末ともなると、何件電話しても混雑を理由に断られたり、長時間待ちを宣告されることも。そんな事情下で、少なからず飲酒運転の禁を破る人々がいるのが大問題。人口千人あたりの飲酒運転検挙率で比較すると、沖縄は全国平均の4.6倍、飲酒運転の事故率も全国ワースト1位という不名誉な冠を戴いている(令和4年度沖縄県警察調べ)。これは沖縄における大きな社会課題の1つと言っても過言ではない。この現状に一石を投じたサービス、それが株式会社Alpaca.Labが配信するAIを活用した運転代行配車アプリの「AIRCLE(エアクル)」だ。

沖縄発の運転代行配車アプリAIRCLE(エアクル)/画像提供:株式会社Alpaca.Lab

利用は簡単。客側がスマホのアプリで現在地と目的地を指定すると、アルゴリズムにより近くにいる運転代行車に依頼が届き、平均12分で迎えが到着する。事前に料金の目安や到着時間も表示されるので、利用客は従来のアナログな依頼方法や料金トラブルからも解放されるというわけだ。

エアクルのアプリ画面
AIRCLEはAIアルゴリズムによって配車を最適化。客側と代行側、両者にとって効率化が図れる(画像はAIRCLEのホームページより抜粋)

2020年8月の沖縄本島での正式リリースを皮切りに、現在はエリアを拡大中。2024年3月時点で、福岡市、和歌山市、宮崎市、さいたま市、熊本市でもサービスを展開、地域が限定されているにもかかわらず、ダウンロード数は13万を超えて増加中だ。


タクシー配車アプリは以前からいくつも知られているが、運転代行配車アプリでここまで成長したのはエアクルが初。沖縄発、そして全国最大級の代行運転配車サービスとして注目を集めている。

やりたかったのは「代行」ではなく
課題解決のロールモデル提示

宜野湾市で育ち、県外に出て北陸先端科学技術大学院を卒業後、教育事業や産学連携事業の経験を積んだという棚原さん。2018年に仲間とともに株式会社Alpaca.Labを立ち上げ、エアクルの開発とリリースに邁進した。

車社会の沖縄育ちゆえ、以前から運転代行に関心を持っての起業かと思いきや、「最初から代行のことがやりたかったんじゃなくて」と、エアクル開発の意外な経緯を語ってくれた。

「僕はもともと研究者を目指していて、向いていないのに気づいて自分はその道は諦めたものの、大学の持つ知見とか技術が大好きなんですよ。本当の意味で世の中を動かすのは起業家ではなく、研究者と呼ばれる人たちだと思っていて」

しかし、大学の研究者の先生方がいくら世に役立つ面白い研究をしても、大企業や地元社会の理解が得られず、社会実装にハードルがあるのが悲しい、と棚原さんは続ける。

「本来なら儲かってる企業が、義務感を持ってそういったものに投資をしていかないと世の中が元気にならないのに、自分たちの領域外のことに手を出さない。沖縄の経済が伸びないのも、教育の課題や貧困の連鎖も、その結果だと思っていて」と暗い表情を見せる。大学卒業後に県内大手企業の面接をうけた際には「新しいこと、総合的なことをやりたい人はウチに向いていない」と言われた経験もあり、大いに失望したという。

「だったら、誰かがやってみせないと彼らには分からないだろうな、と。僕みたいな凡人が、地元の有名企業から出資いただいいて、大学の先生のが持つ技術力を借りた上で、これまで何十年もそこにあった社会課題をたった数年で解決できるっていうのを見せよう、それをロールモデルとして若者や大手企業に示したいって思ったんですよ」

学生のような雰囲気を残す棚原さんだが、その言葉からは熱い思いが伝わってくる

そうして立ち上げられたのがアルパカラボであり、琉大の先生からの「運転代行でやってみないか」の一言が、エアクルに繋がる第一歩になった。

「もう亡くなってしまったんですが、すごい酒飲みの先生で(笑)。それで運転代行について調べてみたところ、課題解決しがいがあると同時に、これが沖縄で成功したら同じような状況にある他県の問題も変えていけるっていう、一つの事例になるんじゃないかと思ったんです」

以降、琉球大学工学部の岡崎教授に協力を仰ぎ、注文発生地や注文数の予測アルゴリズムや、需要分布の推定による配車の最適化等、AIの共同研究開発を進め、現在まで走りつづけてきた。

大好きな地元沖縄に対する熱い想いと、旧態依然とした大企業に対する少なからぬ憤り、そして「知の力」が社会課題を解決できるということを証明するという決意、それらが混然となって創業されたのがアルパカラボであり、エアクルなのだろう。

作ったのは「アプリ」じゃない!
負の連鎖を断ち切る「プラットフォーム」

スタートアップの世界では、ビジネス成功には顧客の「ニーズ」を満たすだけでは不十分で、「ペイン(悩みや痛み)の解決」が不可欠といわれる。これまで多数の企業が参入しては撤退していった代行配車アプリでエアクルが成功できた理由、それは、客側の利便性を向上させただけでなく、業界側が長年抱えてきた構造的なジレンマに踏み込み、そのペインの解決に光を当てたからに他ならない。

棚原さんによると、運転代行は現在全国に8000弱の業者が存在し、市場規模は2500億円以上にのぼるが、「負の連鎖」が蔓延している業界だという。「勘や経験に頼ったアナログな運行管理、それによる非効率な業務形態や人員の不足、機会の損失、過度な競争に陥って適正な料金設定ができていないんです」と、一般にはなかなか知られていない運転代行業の現状を説明してくれた棚原さん。

運転代行業界の負の連鎖/画像提供:株式会社Alpaca.Lab

料金の崩壊は悪徳業者がはびこる一因にもなり、保険未加入・無許可の運行が横行し、事故発生時に大きなトラブルに発展するなど、顧客にとっても不利益につながっているという。

「運転代行の違法行為だけなら、警察や行政が取り締まれる。でもそれじゃあ業界の負の連鎖は解決できないだろう、と。だから『プラットフォームにしよう』と結論を出したんです。これも大学的な考え方ですよね」と棚原さん。

「問題の根本が紐解かれないまま、とりあえず「便利なサービス」を作っても、結局はどこかが引っ張られ、顧客側も『安い方がいいじゃん』となって、元に戻ってしまう。現状を変えていくためには、プラットフォームを敷いて、誰かが旗を振って、より良い条件を示して、説得し、時には教育もして『変わってこう』とやらないと」と、まさに「ペイン」の解決に踏み込んだのだ。

運転代行業者のために開発されたツール。左上から、ドライバー向け「AIRCLE DRIVE」、右はオペレーター向け「AIRCLE OPERATER」、下は経営者向けの管理機能/画像提供:株式会社Alpaca.Lab

2019年には運転代行協会と包括的連携協定を結んだアルパカラボ。業界健全化のビジョンを根気よく伝え、現場の話を聞き、煩雑なアナログ業務等を改善するAIやシステムを作り上げ、導入を促した。その努力により業界側の理解も徐々に深まり、現在までに200業者以上、510台以上の車両が登録されるまでになった。

コロナ禍をバネに成長
人・車・物をキーワードに次のステージへ

これまで事業で苦労したことについて質問してみると「人間関係ですかね(笑)」と、少々斜な答えを返してきた棚原さん。しかし、プロダクトの完成と正式リリースがコロナ禍真っ只中の飲み会自粛期だったことを考えると、苦労がそれだけであったわけはない。素人目に見ても、酔客をターゲットにしたサービスにとって最悪の時期だ。

「もちろん売り上げは苦しかったし、あの時期のせいで成長も遅れてしまったんですけど、逆にコロナのおかげで有利な条件で融資を組めたし、運転代行配車の先の事業展開をじっくり考える時間にもなったので。むしろコロナがなかったら、いま会社は潰れてたんじゃないかと思いますね」と前向きだ。

事業の道程を説明してくれる棚原さん。コロナ禍リリースにもかかわらず、ダウンロード数は確実に伸び、ビジネスとして確実に成長を遂げている

同社は2023年6月にシリーズAの資金調達を実施し、これまでの累計調達額は5億円にのぼる。2024年2月には、エアクルに新しいサービスの形が実装された。これまでの運転代行の代わりに、スタッフ一人が電動キックボードで駆けつけ、折りたたんでお客の車に一緒に載せて出発するという、運転請負業サービス「AIRCLE ONE(エアクルワン)」を開始したのだ。
この形なら普通免許での就労が可能な上、人件費とガソリン代のかかる随行車も不要。人手不足の解消とコストの大幅削減の両得となる妙手だ。

さらに今後は「酔客の需要に依存しないビジネスモデルを広げていく」と棚原さん。

スタートアップ企業らしく、代表と写真の距離の近さを感じる一枚。社員の方によると棚原さんは「アイデアマン」なのだそう

運転代行のリソースが人、車、物の移動に役立つことは間違いなく、少なくともこの三つのキーワードが関わる分野に、事業はおのずと広がっていくと思う、とのこと。エアクルのリリースエリアも「プロダクトに自信が付いたので、あと18地域くらいの追加を考えています。夢はデカイ方がいいので」と笑う。

起業を迷っている方へのメッセージをお願いすると「難しいな……価値観を押し付けるわけではないけれど」と口ごもりつつ、語ってくれた。

「僕は要領が悪くて他人の2倍働かないと一人分の働きができないんですけど(笑)、それでもスタートベンチャーの世界では、結果を出せば勝ちなんですよ。他人に合わせるんじゃなくて、違和感ややりたいことがあるのなら、立ち上がってビジネスを起こして生きていく、そういう選択肢があるんだよっていうのは常に覚えておいてほしいな」

自らを凡人、社会で生きづらいタイプと評する棚原さん。そんな彼だからこそ、真摯に考え、行動し、社会課題解決の輪を広げるという理想を、これからも追い続けてくれるだろう。

取材・文/楢林見奈子

株式会社Alpaca.Lab

設立
2018年8月
資本金
47,450,000円
代表者
棚原生磨
事業内容
運転代行配車プラットフォーム「AIRCLE(エアクル)」の展開
本社所在地
中頭郡中城村字南上原1111番地1
ウェブサイト
https://alpacalab.jp/

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